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2013.2.15荘内日報掲載 私と読書エッセイ「一冊の本がくれた、鶴岡での暮らし」

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 一冊の本との出会いがきっかけで、鶴岡に住まいを移してしまった。

読書に関する思い出はありませんかと聞かれたら、真っ先にそのことが思い浮かぶ。庄内の在来作物とその再生を追ったノンフィクションに大変な感銘を受けた私は、本に出てくる作物や人々に会いたい一心で当時予定していた留学をキャンセルし、期待で胸いっぱいに本当に鶴岡へ引っ越してしまったのだから、我ながら驚きである。

今でこそ己の向こう見ずな性分に恥じ入り周囲にかけた心労に頭が下がる思いでいっぱいなのだけど、こうして今、鶴岡という土地の豊かな食や独特の文化を知り、季節の移ろいを五感で味わい、東京にいては出会えなかったであろう人々と親交を深め、一日また一日と過ごせることを幸せに思う。

そんな運命的な出会いをくれたのは、図書館だった。東京で暮らしていた頃家から五分とかからないところに区立の図書館があり、それほど大きくないものの蔵書は多様で居心地も悪くなく、休日ともなれば足を運んで時間を過ごすことをささやかな娯楽としていた。

二十六歳の冬だった。からからに乾いた冷たい空気の中、コートの襟を立てて足早に歩いた道中で、見上げたうす青い空いっぱいにケヤキが枝木を広げていたことをよく覚えている。

図書館でいつものように整然と並ぶ背表紙のタイトルを追っていると、ふと「庄内」という文字が目についた。庄内といえば、庄内平野。庄内平野はたしか、山形だったはず。当時の私の庄内に関する知識はその程度だったにも関わらず、目が留まったのは意中の人が山形出身だったからだろう。表紙には冠雪した富士山に似た美しい山と、どこまでも広がる黄金色の田んぼが写っていた。

その日は中身まで見ずに元の位置に戻したのだが、別の日に図書館を訪ねると再び庄内の二文字が目に入る。これはきっと何かのご縁と、今度はカウンターで貸し出し手続きを済ませて大事に家まで連れて帰った。その後に起こったことは、先に述べたとおりである。

『庄内パラディーゾ』と題されたその本に出逢わなければ、私はここにいなかっただろう。あれから三年が経った今、改めて振り返り感慨深いものを感じている。

ところであらかた楽しく過ごしている鶴岡での暮らしの中で、途方に暮れてしまったことの一つに読書の時間がある。

それまで私は読書の時間の多くを通勤や通学の電車の中で過ごしてきた。学生時代、神奈川県の実家から高田馬場の大学までの往復時間は優に四時間はあり、そのほとんどを読書にあてることができたことは今思えば幸運だった。本と共に電車へ乗り込めば、窓の外を眺めるほかに退屈な時間がたちまち夢世界となった。

そうして過ごしていた本との時間が、電車と疎遠な生活となってきれいさっぱり無くなってしまったのだから、焦った。そしてこれは言い訳でもあるのだけれど、そう易々とこの土地は私に読書をさせてはくれなかった。

穏やかに晴れた日ならどうしてか、まず山が気になる。無意識に心は月山と鳥海山を求め、ふらりと出掛けてはその悠然とした姿を見止め、ほっとする。視線を手前に落とせば田んぼや畑が四季折々の表情を楽しませてくれるし、じっと目を凝らすと名も知らぬ花や草木、生き物たちが息づいていることに気がついて、嬉々としてしまう。

雨の日は雨の日で、雨風の力強さに圧倒される。時折やってくる理不尽なほどの暴風には家が吹き飛ばぬものかと気が気でないし、静寂を打ち破って襲来する雷には恐怖心を紛らわせるために音楽に身を委ねるほか成す術なしである。

このように、鶴岡は色も光も、音も香りも、豊かなところだとつくづく思う。個性的で変化があって、飽きることがない。だからそれらの誘惑や挑発を断ち切り読書の世界に没頭するのは、とても難しい。

でもこうした土地だからこそ、身を浸せば浸すほど想像力は豊かになるだろう。以前と同じように本を読んでも見ている景色は輝きを増し、細部まで生き生きと描けるようになっているように感じている。

恵まれた環境がために読書に没頭できないとは、贅沢な悩みである。本との出会いがくれた鶴岡での暮らしだが、もう少しこの贅沢を楽しみながら、私なりの読書の仕方をゆっくりと探していけたらと思っている。

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