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Interviews/農ある暮らしが教えてくれる小さな幸せを届けたい。鶴岡市羽黒町で新規就農 吉田伸一さん・幸子さん

 ←Interviews/さくらんぼ農家でデザイナー。農ある暮らしと天職を行う生き方(半農半X)を実践 宮城 妙さん →陽子から、楊子へ。


庄内平野を見渡す景色に惚れ鶴岡市羽黒町で新規就農


 山形の内陸と日本海側をつなぐ山形自動車道の庄内あさひICを降りてすぐ、鶴岡市から遊佐町までを結ぶ全長約55kmの庄内こばえちゃラインと呼ばれる広域農道(別称:スーパー農道)へ車を走らせたことがある方なら、おわかりいただけるのではないでしょうか。月山の裾野を走る小高くなった農道から見渡す庄内平野の悠然とした眺めを目にし、思わず心奪われてしまうような瞬間があります。


 息子と娘を連れ家族4人で千葉県から移住した 吉田伸一さん・幸子さんご夫妻も、ここからの景色に惚れ込んで、2010年3月に鶴岡市羽黒町へやってきました。


 関東で運輸会社へ勤務していたご主人の伸一さんは、企業に勤めるのではなく自分でものごとを興したいと思い、それまでの安定した暮らしから一転して農業に携わることを決意します。どうせやるのなら気に入った場所でと理想の土地を求めて全国各地を見てまわっていたところ、ついでに足を伸ばした庄内で目にした景色に魅せられて、ここで新規就農することを決めました。現在は2年間の研修を修了し鶴岡市羽黒町の中川代地区で畑を借りて、ブルーベリーやカブ、人参等の野菜を有機栽培で育てています。


 



  それまでの安定した収入や手厚い福利厚生などの待遇を捨ててでも、新規就農を決意したご主人の伸一さん。その決断に至るまでは、どのような思いあったのでしょうか。


 「企業で働く中で、自分はずっと会社へ勤めるのではなく、自分で何かを興したいという思いを持つようになりました。それまで勤めていた運輸会社を退職し、人に会ったり話を聞いたりしてその思いを突き詰めていったところ、農業を始めることに思い至りました。


 どうせやりたいことをやるのなら気に入った場所でやりたいと思ったので、全国各地を視野に入れて理想の場所を探しました。最初は当時住んでいた千葉から近い、埼玉や群馬を、それから新規就農に積極的な岡山や和歌山、岐阜などの西方面も検討しました。でも、なんとなく自分の中で西よりは東かな、という意識もあったので、山梨や長野、福島も見に行きました。


 また、農業の中でも果樹がやりたいという意識があったので、果樹王国である山形も選択肢のひとつでした」。


 そんな吉田さんが庄内を選ぶきっかけとなったのは、偶然目にした庄内の景色の美しさだったそうです。


 「千葉でブルーベリーの農園を見ていて関心があったので、山形県の内陸で行われた見学会へ参加したついでに鶴岡市羽黒の鈴木ブルーベリー園さんを訪ねてみようと思いました。月山を超えてスーパー農道を走っていたところ、目的地が見つからず同じ道を何回も行ったり来たりしたんですね。9月の頃だったんですが、小高い丘から見渡した黄金色に輝く庄内平野や、目前に大きくそびえる月山がすごくきれいで、なんだかイタリアのトスカーナみたい!と妻と二人で盛り上がり、一気に気持ちが傾きました」。


  そうした夫の決断を、妻の幸子さんはとても寛大な心で見守っていらっしゃいます。


 「主人が会社を辞めて自分の将来について考え始めた頃、上の子が4歳で、下の子がお腹の中にいるときでした。農業をやりたいと言われた時には、ふーん農業なんだ、というか、やったこともないし土地もないし、半信半疑でしたね(笑)


 庄内へ行くと決まってからは、本当に行くの!?と驚きながら、時間もなかったのですごくバタバタとして大変でした。でも、やるしかないというか、彼を信じるしかないと思っていたので、二人で力を合わせて乗り越えましたね。不安がなかったわけではありませんが、やりたいことがあるならやったらいい、駄目ならまたやりなおせばいいじゃない、いつもそんな風に考えています」。


 寛大なわけではなくて将来への漠然とした不安感のようなものの感覚が鈍いんですよ、と言って笑う幸子さんですが、夫を心から信頼して支える姿に女性として見習うべきことがたくさんあると、頭が下がる思いでした。


 



新規就農をサポートしてくれたたくさんの人との縁


 庄内で農業をやろうと決意した吉田さんですが、鶴岡市は新規就農者へのサポート体制が十分ではなく、市役所へ連絡しても窓口がないと言われてしまいます。そんな吉田さんが庄内で就農することができたのは、ある行政の方の熱心なサポートがとても大きかったそうです。


 「どうしてもここでやりたい、と思ってしまったので、駄目もとで羽黒庁舎へ電話をかけました。そしたらたまたま担当してくださった産業課の方が本当に良くしてくださって、研修先や研修中の補助のことから、住む家、独立後の農地まで、親身になって相談にのってくださり、自分のことのように動いて下さいました。こんなに個人の為に一生懸命にしてくださる行政の方がいるなんて、本当に驚きました。もしその方がいらっしゃらなかったら、駄目だったか…とあきらめて、今ここにはいなかったかもしれません」。


 現在はブルーベリー農園での2年間の研修を終了し、独立して2年目の農作業に汗を流している吉田さん。羽黒町の中川代にある数十年耕作放棄地となっていた畑を借り、ブルーベリーを200本、その他に赤カブや人参などの野菜を育てています。当初畑は10m級の木々が繁る雑木林だったそうですが、土地を整備する時にも地元の農家さんが本当によく面倒を見てくださり、知恵や力を貸してくださったそうです。


 「本当に人に恵まれました。農家のお父さんたちの知恵の広さ、実行力には本当に驚きました。自分たちではどうしたらいいかわからないことでも、『これはこうしたら大丈夫だー』といって、ぱぱっと片付けてしまうんです。今持っているもの、あるものを使って工夫をこらし、なんとかしてしまう力は本当に尊敬します。また、農作物の売り先についても、人のご縁に助けられました。


 振り返ってみると、やりたいと思ったことをその旬のうちにやることで、全部が繋がっていくように思いました。もたれかかるではないですが、自分の意志を明確にしてそれを大事にしながら行動を起こし、流れに乗って進んでいくことが、結果的に自然と良い方向へ導いてくれるように感じています」。


 



子どもと一緒になって遊び、自然に近い暮らしを楽しむ


 小学校と保育園の子を持つ親として、子育てに勤しむ吉田さんご夫妻。運動会などで親がかり出される機会が多かったりと都会と異なる環境の中ですが、楽しみながら実に上手に順応されています。


 「私たちよりむしろ子どもたち、特に保育園に通う娘は戸惑いがあったみたいですね。保母さんたちの言葉がママの言葉と違うので、例えば「食べて良いよ!」が、「け!(食え)」ひとことだったりするじゃないですか。娘はなんと言われているのかわからず、なんと言っているのかを聞くことも出来なくて、硬直していたことがあったようです。事前に保母さんに配慮していただくように、お願いしておけば良かったなと思いました。


 あとは、よく皆さんから自然環境が豊かだから子どもも喜ぶでしょう、と言われるのですが、自然が身の回りに溢れているからといって子どもたちが自由に遊ぶかというと、そうではないんですね。私たち大人が自然の楽しさや遊び方を知らないと、自然のなにが楽しいのか、子どもたちもわからないということに気づきました。だからまずは自分たちが遊び、子どもと一緒になって楽しんでいます」。


 


  


皆さんのバラ色の人生の、エッセンスになりたい


 吉田さんのお宅には、畑からひろってきた木々や花、幸子さんが手作りしたものなどが飾られています。農業だけじゃなく、自然とともにある生活そのものを心から楽しんでいることが伝わってきます。


 「現在、吉田里山研究所 PAPAの畑というFacebookページなどを中心に、情報発信をしています。単に農作物をつくるだけじゃなくて、農業から派生する暮らしそのものの楽しさだったり豊かさだったりを、伝えていきたいと思っています。ブルーベリーの木の中で見つけた小鳥の巣とか、あけびのつるで編んだリースや籠とか、農ある暮らしの小さな幸せを皆さんにお届けして、バラ色の人生のエッセンスになりたい。そんな思いで情報発信をしています」。


 忙しい暮らしの中で見逃してしまいがちだけど、ほんの小さな発見や幸せが、世の中にはこんなにもたくさんあるんだよ。


 吉田さんご夫妻が発信する美しい風景の写真や温かな言葉の中には、農ある暮らしが教えてくれる優しさがたくさんつまっています。是非一度、Facebookページを訪ねて吉田さんの言葉や想いに触れてみてください。 


ヤマガタ未来Lab.へ掲載

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